J・I・Cの活躍が与《あずか》って力ある事を、意外にもペトログラドに於けるケレンスキー一派の諸新聞が、一斉にスッパ抜いているという風評を承《うけたま》わった位ですが……これは寧《むし》ろ外務省の機密局か、もしくは、特高課あたりの仕事かも知れませぬが……私は是非ともこの曲馬団の真相を探って見たいと思うのですが……彼奴《きゃつ》等の態度があんまり人を喰っているようですから……」
 功名手柄に逸《はや》っている新任総監は、こうした私の長広舌を、非常な熱心をもって傾聴した。永年外国に居て、西洋の事情に精通している君でなければ、とてもそんなところに着眼は出来まいとまで激賞した。……のみならず、丸の内の宮城に近い処に、このような天幕《テント》張り式の見世物の興行を許可するという事は将来に悪い慣例を残す事になるし、第一〇〇の尊厳を涜《けが》すものである。一つその曲馬団の正体を根こそげたたき上げて、外務省の鼻を明かしてやり給え……という個人的な意見までも添えて賛成したのであった。
 ところがその結果はどうであろう。願書が出てから二週間も経たぬうちに高星総監はこの興行を無条件で許可したのみならず、態々《
前へ 次へ
全471ページ中42ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング