新橋の方へ駈け出しますと、間もなく左側に貸自動車屋を見付けましたので、大喜びで俥を降りて車夫に一円遣りまして、そこの新しいフォードに乗りかえて日本橋の尾張屋という壁紙屋へ行って壁紙と糊を買いまして、三越へ行って絨毯や、電燈の笠や、椅子のカヴァーや時計を求めて食事を致しました。それから伝馬町の岩代屋という医療器械屋へ行って標本の骸骨を買いますと、そのまま真直ぐに自動車でこの家まで参りましたが、道が入り組んでおります上に狭いので大層時間がかかりました。それでも大急ぎで仕事を致しましたので、一時間半ばかりのうちに、やっとこの室《へや》を飾り付けてしまいました」
「えっ……この室《へや》を……」
「……はい……」
女は何気ない答えをしつつ、今日曲馬場で私を見上げた時とそっくりの無邪気な表情をしてストーン氏を見上げた。
ストーン氏は真青になってしまった。……高の知れた女一匹……と思って調子をおろしていた相手から、思いもかけぬ不意打ちを喰ったのですっかり面喰《めんくら》ってしまったらしい。恰《あたか》も呉井嬢次が壁の向う側に立っているかのように、又は室《へや》中の道具が一つ一つに自分を取り巻く
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