へ行きましたか」
「それから駅前の自動車の間をゆっくりゆっくり歩いて、高架線のガードの横を東京府庁の前に出まして、鍛冶橋を渡って、電車の線路伝いに弥左衛門町に這入って、カフェー・ユートピアの前に立って、赤い煉瓦の敷石を長いこと見つめておりました」
「それは何故ですか」
「何故でございましたか……何だかふらふら致しておるようでございましたが、そのうちに二階に上って行きましたから、妾《わたし》共二人もあとから上って参りました」
「えっ……二人で……」
「はい……」
「見付かりませんでしたか」
「いいえ。叔父は西側の窓に近い卓子《テーブル》の前に坐って何かしら眼を閉じて考え込んでいるようでしたから、妾たちはその隣の室《へや》の衝立《ついた》ての蔭に坐って様子を見ておりますと叔父も何かしら二皿か三皿|誂《あつら》えて、妾たちの居ります室《へや》のストーブのマントルピースの上をじっと凝視《みつめ》ておりました」
「その時にも見付けられませんでしたか」
「何か考え事に夢中になっている様子で、室《へや》の中に誰が居るか気が付かぬ風付《ふうつ》きでございました。そうしてぼんやりとした当てなし眼をしなが
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