部分である。……ところで、これも前同様、曲馬団の性質として深く咎《とが》むべきでないとしても、彼等が日本に来てから「無事到着」の電報を米本国に打った者が一人も居ない。同時に一本の手紙を出した形跡すら発見されないという事実ばかりは、私の注意を惹《ひ》かない訳に行かなかった。
 この事実は一面から見ると彼等が米本国に家庭を持たない証拠である……彼等が一人残らず、一種の無頼漢《ぶらいかん》、もしくは国際ゴロの集団である事を証拠立て得る可能性のある事実と認められるのであるが、もし又、そうでないとすれば、彼等は何等かの理由で表面上、本国との信書の往復を禁ぜられているものと見なければならぬ。すなわちその信書の表記《うわがき》や内容に依って、何等かの秘密が漏洩《ろうえい》しそうな虞《おそ》れを抱いている一種の秘密団体とも見られる訳で、いずれにしても尋常一様の曲馬団とは思えない。……のみならず特に私の注意を高潮させたのは、彼等の中《うち》でも兄《あに》い株らしい、カヌヌ・スタチオと称する伊太利《イタリー》人が、今月の中頃に目下太平洋上を航行中の巨船オリノコ丸の乗客、バード・ストーン団長に宛《あ》てて打
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