いえ。ずっと離れた馬場先の柳の木の蔭で読まれました」
「……フ――ム……それからどうしました」
「嬢次様は、そんな記事を見てしまわれますと、深い溜息を一つされました。そうして……これはなかなか骨が折れるぞ……と云われましたが、その時にふっと曲馬場の入口の方を見られますと、急いで妾の手を取って、近くに置いてあった屋台店の蔭に隠れられました」
「それは何故ですか」
「ちょうどその時、はるか向うの曲馬団の改札口から出て来た一人の紳士がありました。その紳士は四十ばかりに見える髪の黒い、鬚のない、灰色の外套を着て、カンガルーのエナメル靴を穿いた方で、最前キチガイのように騒いで、ハドルスキーさんに抱き止められた人でしたが、嬢次様はその人を指さして、あの紳士が叔父様の狭山九郎太氏と教えられました」
「えっ」
とストーン氏は思わず身を乗り出した。丸|卓子《テーブル》の上に両手を突いて、眼を剥き出して女の顔を見た。
珈琲の匙《さじ》がからりと床の上に落ちた。
「……叔父様……ミスタ・サヤマ……どうして来ておりましたか」
「はい。私も初めは吃驚《びっくり》致しました。あんまり変りようが非道《ひど》うご
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