ン氏を欺くためにした事と、私は最初から睨んでいたが、しかし、たったこれだけの事のためにしては余りに念が入り過ぎている。あとで私を欺くためとは無論思えなかった。
その中《うち》にストーン氏は玄関の入口の垂れ幕を引き退《の》けて、玄関の横の扉《ドア》の把手《ノッブ》に手をかけた。私も急いで椿の蔭を出ようとしたが、ちょうどその途端に、今まで黙っていた女が、何やら口を利き出したので、ストーン氏は振り返った。私も亦《また》、硝子《ガラス》窓に耳を近づけた。
「何ですか」
とストーン氏は、女の方に半身を向けて眼を※[#「※」は「目+爭」、第3水準1−88−85、286−13]《みは》った。
「貴方《あなた》はもしやあの丸の内で、曲馬を興行しておいでになるお方ではございませんか」
女の声は石のように硬ばって、今までの弱々しい調子がすっかりなくなっていた。そうして丸|卓子《テーブル》の上の灰色の封筒と、ストーン氏の顔とを恐ろしげに見比べた。
この様子を見るとストーン氏は急に女の方に向き直って、晴れやかに顔を光らした。
「はーい。そうでございます。私はそのキョク……曲馬団のマネジャー……ダン…
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