ってくれるといいと……いつもそんなに思っているのでございます」
 といううちに今度は女の方が耳まで真赤になってしまった。
 この真に迫り過ぎた名優振りには、流石《さすが》の私も舌を巻かざるを得なかった。……これ程のすごい技倆《うで》を持った女優は、西洋にも日本にも滅多に居ないであろう。リスリンの涙を流す銀幕スターなんか糞《くそ》でも喰らえと云いたい位である。現在嘘と知っている私でさえも、まともにこの女の手にかかったら嘘と知りつつパパにされてしまうかも知れない……と気が付くと、思わずぞっとさせられた位であった。まして何も知らないストーン氏が、どうして参らずにおられよう。如何にも尤《もっと》も至極という風に幾度も幾度もうなずかせられたのは、はたから見て滑稽とはいえ、当然過ぎるほど当然な事であった。
「……そうですねえ。ほんとうにそうですねえ。それでは、いつでもお二人でこの家にお出でになるのですねえ」
「いいえ……あの……一緒には居ないのでございます」
 と女はすこし顔を上げた。
「……平生《ふだん》は妾は遠方の下宿に居るのでございますが、叔父が家《うち》を留守にする時には、いつもどこからか
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