眼にかかってお礼申上げる機会がないかも知れませぬ事を悲しく思います。
 お身体《からだ》を大切に願います。

 ――さようなら――[#地付き、地より3字アキ]

 読み終ると私は絵葉書をぽんとたたいた。
 ……これだ。これが彼奴《あいつ》等のトリックなんだ。俺の第六感はこの通り全部的中しているのだ。
 ……よろしい……紫のハンカチはたしかに受取ったぞ。その代りに白い眼かくしを送ってやるぞ。
 ……しかし貴方の御親切が私の生命はよかったな。全くその通りだ。アハハだ。
 ……もう一人の相棒も洒落《しゃれ》てるぞ。情婦と書かないところがしおらしいぞ……ははん……。
 こんな事をつぶやくともなく冷笑した私は、反射鏡《バック・ミラー》越しに運転手をちらりと見て、車内照明《ルーム》を消さした。
 自動車はもう、日比谷公園の中から虎の門を横筋かいに、溜池《ためいけ》の通《とおり》を突き抜けている。何の事件か知らないが豆を撒《ま》いたように街路を狂奔する号外売を、追い散らす間もなくすり抜けすり抜けして赤坂見附の真中に片手を揚げている交通巡査をちらりと見残したまま一気に東宮離宮横の坂を飛び上った。
 そ
前へ 次へ
全471ページ中331ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング