ライトのようにありありと現われて来るではないか。
あの時に発見した聖書は、今も警視庁の参考品室の片隅にある、暗号の部と書いた硝子《ガラス》戸棚の中に投《ほう》り込まれたままになっている。たしか二〇一番の札《ふだ》を貼られたまま塵埃《ほこり》に包まれている筈である。
私も、今朝《けさ》の中《うち》迄はすっかりあの事件を忘れてしまっていた。何もかも忘れて、余生を自然科学の研究に没頭して送るべく、これから追々と買入れねばならぬ器械と、薬と、書物の事ばかり考えていた。
ところが今日の午後になって、嬢次少年の訪問を受けると又も、新《あらた》にその時の記憶を喚び起したのみならず、その問題の曲馬団の興行を見物に来て、カルロ・ナイン嬢の美しい姿を見て、どこかの華族様の令嬢ではないかと思ったりした。又、自分の直ぐ背後《うしろ》に坐っている女優|髷《まげ》の女を見ると、もしや志村のぶ子ではあるまいか……なぞと途方もない事を考えたりした。そのおかげであべこべに女から不良老年と見られて逃げられてしまったが、その時に私は、変な日だなと思った。今日は自分の頭が余程どうかしていると思った。そのほかにも未《ま》
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