入った。それから入口に赤い煉瓦を敷いた家……ここだ……ここに這入ったのだ。して見ると私は曲馬場の前に出て、鍛冶《かじ》橋を渡って、電車通りから弥左衛門町に這入ってここへ来たものらしい。とにかくあの曲馬場の楽屋で嬢次少年が書いた文句、
「この中の黒い鞄は頂戴致しました。御心配かけました」
というのを読んでから今までの間の私の頭の中はオムレツにされかけた卵のように混乱していた。嬢次少年に欺かれ、弄《もてあそ》ばれたという憤怒の焔《ほのお》に熱し切っていた。そうしてその中に、今日の出来事の原因結果を整理しようと焦躁《あせ》っていた。
……何のために私をあれ程に欺いたのか。……何故に十四五分で済む演技を二十分以上もかかると嘘を吐《つ》いたか。何故に私を死ぬ程心配させたか……と考えては考え、考えつくしては又考え直した。けれどもそれはただ私の頭を混乱させるばかりで、何等の判断力も決定力も与えなかった。
……否……たった一つ……私がハドルスキーに抱きすくめられて藻掻《もが》いているうちに……まだ多少の推理力が頭の片隅に残っているうちにてっきりそれに違いないと思い込んだ事がある。そう気がつくと同
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