る隙《ひま》はない。
場内は一寸《ちょっと》居ない間《ま》に著しく暗くなって夕暗《ゆうやみ》のような色を漂わしている。これは太陽が雲に隠れたためで、見物は水を打ったように静かだ。演技場の真中には今、中位の象かと思われる巨大な白|葦毛《あしげ》の挽馬が、手綱も鞍も何も着けずに出て来て、小さな斑《ぶち》のテリア種の犬と鼻を突き合わせて何かひそひそ話をしている体《てい》である。そこへ赤白だんだらのピエロ服を着て骸骨のように眼鼻を黒くした小男が、抜き足さし足近づいて来て、妙な腰付きをして耳に手を当てがいながら、馬と犬の内証話を聞こうとした。これを見付けた犬は急に憤《おこ》ってワンワン吠えながら道化男に噛み付こうとする。道化男は危機一髪の間《ま》に悲鳴を揚げて逃げまわる。楽隊が囃《はや》し立てる。見物はただ訳もなく笑った。
馬と小犬は道化役者《ピエロ》を楽屋口の柱の上に追い上げると又、広場の真中に来て内証話を初める。
私は又時計を出して睨み初めた。もう二分経っている。あと十五分……。
道化男は又、前の失敗を二度ほど繰返した。見物席に駈け上ったり、木戸口から飛び出したりした。しまいには馬の
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