の眼に残っている。それから私は少年を送り出すと、直ぐに変装をして家《うち》を飛び出して、警視庁《やくしょ》へ来て志免警視に面会して、
「近いうちに大仕事があるかも知れないから腹構えをしておくように……」
と云い棄ててここへ来たので、後から思えばこの時の私は、嬢次少年を信用していたというよりも、寧ろその姿の美しさと、心根の真実さと、頭脳の明晰さに酔わされていたものと評すべきであろう。
折から又一しきり場内でゲラゲラという笑い声がどよめいた。時計を出して見るとキッチリ三時十分である。今から約二十分の後《のち》――三時半前後には騒ぎが初まるのだ。私はズラリと並んだ馬の顔を一渡り見まわすと直ぐに亜鉛《トタン》塀を飛び出して、表の入口に来て、今度は切符を見せて無事に場内の特等席に帰った。私の背後《うしろ》に居た女優髷の女はまだ席に帰って来ない。大方私を不良老年と見て取って帰ってしまったのかも知れぬ。つまらない事をしたものだ。
もう一度時計を出して見ると三時十三分になっている。厩から出てゆっくり歩きながらここまで来る間《ま》に三分かかっている訳だ。あとは僅に十七分間である。女の事なぞ考えてい
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