ゴチない文章を横書にした、世にも読み難《にく》いこの遺書をとうとう読み終った。けれども暫くの間は行の末尾を凝視した切り顔を上げる事が出来なかった。
 私はこれ程の信頼と尊敬とを受けた事は未だ曾《かつ》てなかったのである。
 同時にこれ程の面目なさと恥ずかしさを感じた事も未だ曾てなかった。そうして又、これ程の大きな難事業を委託されたのも生れて初めてだったのである。
 そうして又、同時に、これ程の純な気持ちを持った親子が、斯程《かほど》まで残虐な、異常な運命に飜弄されているのを見た事も、今日迄六十余年の生涯を通じてなかったのである。
 泣きも笑いも出来ないとはこの時の私の気持であったろう。
 けれども、やがてそのようなあらゆる感情が雲のように湧き起るのをやっと押し鎮めて、平生の理智を取り返して来ると、私は眼の前に面《おもて》を伏せている少年の姿に、驚異の眼を注がない訳に行かなかった。
 この少年は極めて無邪気な方法で、岩形氏……否、志村浩太郎氏の屍体の秘密をどん底まで透視している。警視庁で鬼と謳われた私の手落を、二年後の今日に至って何の苦もなく看破している。……しかもその証拠は儼《げん》と
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