、主義とか、意地とか、張りとかいう理窟めいたものは影さえ残っておりませんでした。そうして、そんなもの以上に切実な真実心ばかりが澄みきって残っていたのでありました。
 その澄みきった真実心をもって静かに仰ぎ見ました時に、初めて宮城の気高さと尊さがわかりました。これこそ吾々日本民族が、この真実心を以て守り伝えて来た、その真実心のあらわれに外ならぬ。あの瑞々《みずみず》しい松の一葉《ひとは》一葉、青い甍の一枚一枚、白い壁の隅々、あの石垣の一個一個までも、こうした日本民族の真実心の象徴に外ならぬではないかとしみじみ思い知りました。
 私の心がしずかに、神々しく私に帰って参りました。そうして雨の中に悽愴《せいそう》粛然と明けて行く二重橋を拝しまして、大自然の心の中《うち》にある最も崇高な、清浄な心の結晶が昔ながらに在《おわ》しました事を感謝しました。雨にずぶ濡れになったまま青草の中にひれ伏して、今までの小生の罪を繰返し繰返しお詫び致しました。
 かくして小生は主義も理想もない天空快濶な自然の児《こ》に立ち帰る事が出来ました。二十年|前《ぜん》の若い田舎書生の心となって、恐る恐る帝国ホテルに帰って
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