……愛児嬢次に対する純愛の再生によって……。
小生のこの時の煩悶が如何に甚だしかったかは、御賢察に任せるほかありません。
それから後《のち》小生は丸二日の間一度も帝国ホテルへ帰りませんでした。市の内外各所の酒場料理店を次から次へと飲みまわって良心の声を聞くまい聞くまいと努力しました。妻らしい女の影を見ますと、良心に追いかけられるように往来をよろめきつつ駈け出しました。夜は又眠られないままに、こっそりホテルを脱け出して、代々木方面の草原《くさはら》に寝て星を仰いで考え明かすなどして、僅かの間に脱獄囚のように窶《やつ》れ果てた一事でも、略《ほぼ》、御賢察が願える事と思います。
けれども私は遂に良心の追跡から逃れる事が出来ませんでした。
小生は去る十月八日の早朝、前後不覚に酔いたおれて、どこかわからないまま睡っておりました草原の中から頭を擡《もた》げますと、折りから降り出した時雨《しぐれ》の中に、蒼然《そうぜん》と明け離れて行く宮城の甍《いらか》を仰ぎました瞬間に、思わず濡れた草の中に正座しました。すっかり酔いから醒め果てて、くたくたに疲れきったその時の私の心の底には、もう理想とか
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