を守りまして花栽培に熱中しましたが、その中《うち》に偶然、カーネーションの肥料にアマニンの実が適当している事を発見し、大輪の花を咲かせる事に成功しましてから、一躍花成金となり、巨大なる温室十数棟を所有するに至り、居住しておりましたロ市でも屈指の成功者として衆人の尊敬を受ける身の上と相成りました。
愛児嬢次が生れましたのも実にこの時でありましたので(嬢次という名前は一見奇妙に感ぜられるかも知れませぬが変名ではございませぬ。これは同人が生れますと間もなく非常に虚弱な体質に見えて来ましたので、異性に形どった名前を附けると丈夫に育つという日本在来の迷信から、妻が小生と相談の上ジョージというクリスチャンネームを象《かたど》って附けたものであります。又、嬢次の母方の里は久礼《くれ》姓でございますが、万一貴下が同人をお探し下さる場合にはそんな名前を用いているかも知れませぬから御参考迄に申添えておきます)その頃の私達一家は、実に幸福そのものの象徴でありました。
しかし、世間にありふれた、平凡な実例ではありますが小生を今日のような不幸のドン底に陥れたものは他でもありませぬ。この時の身分不相応な幸福そ
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