心の「淋しさ」が「一層深い淋しさ」を求めるからであろうと思う。だからこの草茫々たる荒地の中に立っている、見すぼらしい西洋館は、このような性格の主人に最も適当した住居《すまい》で、同時にその主人公の背の高い、青黒い、陰気な風采と、この上もなくしっくりしているに違いないと思う。
 私は帽子と外套の塵を払って、買って来た烏龍《ウーロン》茶の包みを取り上げる迄に、これだけの事を考えた。別段、今更に考え直す迄もない事であるが、現在世にも珍らしい少年が、滅多《めった》に人を迎え入れた事のない私の家《うち》に、何の苦もなく侵入して来て、応接間で私を待っている……という事実に対して、何となく心が動いたために、今更に自分の孤独な生活が自分の眼に……否、心に浮み出たのである。そうして気のせいか少年は、こうした私の生活や、性格や、事によると経歴までも知っているように思われてならなかった。
 ……が……しかし果して知っているであろうか。それともこっちの顔と名前だけを知っているのであろうか。そうして一体何の用事で来たのであろう。どこの者であろう。日本人か西洋人かすらまだハッキリわからないのだが……怪しくも亦、不
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