》を外して、大きな茶色の封筒を取り出して、私の前に差出した。
私はいつの間にか棒立ちになっていた。依然として無言のまま、感心も、驚きも、又は面目なさも通り越した厳粛な気持になって、その封筒を受取る器械みたように受取って、検《あらた》める器械みたように検めた。中味の書類はフールスカップの半帳を綴じたもので、ノート風の横書の文字がびっしりと詰まっているが、二年の時日が経過しているので、インキの色がいくらか変っている。それを拡げて見ると中から志村浩太郎氏の写真入りの古ぼけた旅行免状が一通出て来た。
「僕は……それを見てから、昨夜《ゆうべ》じゅう夜通し眠られなかったんです。そうして今朝《けさ》すこしばかり眠って、眼が醒めるとすぐに曲馬団を飛び出して来たんです。……もう……我慢……出来なくなっちゃって……」
少年の声は急に曇った。ハンカチで顔を蔽うと同時に肩をすぼめて戦《おのの》かしながら、机の上に突伏した。
私は廻転椅子の中にどっかりと落ち込んだ。そうして忍び泣く少年の姿を見ないように横向きになったまま、わななく指で第一頁を開いた。
警視庁 第一捜索課長
狭山九郎太氏 足下
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