。そうして私が封を切って読みかけている手紙を熱海検事と二人で覗き込んだ。
 その手紙は記念のために、まだここに持っているが、白い西洋封筒の上に鉛筆の走り書きで、

   警視庁第一捜索課長

    狭山九郎太様  御許に[#「御許に」は小文字]

     志村のぶ子 拝[#地付き、地より5字アキ]

 と認《したた》めてある。中の手紙はタイプライター用紙六枚に行を詰めて叩いた英文で、よほど急いだものらしく、誤植や誤字がちょいちょい混っている。飜訳すると原文よりは少々長くなるようであるが、あらかたこんな意味である。

 取り急ぎますままに乱文の程お許し下さいませ。
 妾《わたし》は只今、貴方様の神速な御探索を受けております事を承知致しまして、とても助かりませぬ事と覚悟致してはおりますが、万に一つにも、お眼こぼしが叶いました節は、生きて再びお眼もじ致します時機がないように存じ上げますから、勝手ながら、妾の一生のお願い事をお訴え申上げたく、不躾《ぶしつけ》ながら手慣れておりますタイプライターの英文にて御意を得させて頂きます。
 その中《うち》にも何より先立ってお許しの程をお願い申上げとう
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