内をさせてから後《のち》の奇々怪々な行動を見たら、誰でもてっきり犯人と認めるのが当り前で、決して私の逃げ口上でもなければ、負け惜しみでも何でもないという自信を今でも持っているのである。
ところが私が女を犯人と認めるに至った根本の理由となっている、珈琲の中の毒薬の一件は、今のボーイの話によると全然消滅してしまう事になる。女が珈琲の中に毒薬の入っていることをまるで知らないでいた事は、その動作によって明瞭に察する事が出来るので、男の方が却《かえ》って毒薬と知って引っくり返したものを、わざわざ拭いてやって、恐ろしい証拠物件となるべきハンカチを男に渡してしまった上に、自分の持っていた紫のハンカチまでも与えている。この点から考えると、女を犯人と認める第一の理由は、あとかたもなくなってしまうので、帰するところ、私の推理に根本的な大間違いがあった事になるであろう……否……否……であろうどころではない。その根本的な推理の間違いは今やっと判明《わか》った。
私は岩形氏を殺そうとしたものと、実際に殺したものとを、最初からたった一人の犯人と思い込んでしまっていたのだ。「魚目」の毒もメチールも、同じ人間が同
前へ
次へ
全471ページ中131ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング