かけている連中に会うべく十四号室の扉《ドア》をノックして開いた。
そこは岩形氏の屍骸が横たわっている寝室と隣合わせの稍《やや》広い居間《プライベート》で、一流のホテルらしい上等ずくめの……同時に鉄道のホテルに共通ともいうべき無愛想な感じのする家具や、装飾品が、きちんきちんと並んでいたが、そんなものに気をつけて見まわす間もなく、ふと室《へや》の向側を見ると、窓に近い赤模様の絨毯の上に突立った志免警部と飯村部長が、色の黒い、眼の球《たま》のクリクリした、イガ栗頭の茶目らしいボーイと向い合っている。何か訊問をしているらしい態度であったが、私を見るとちょっと眼顔で挨拶をしてから又、二人でボーイの顔を凝視した。
私はこのボーイが岩形氏の変死を最初に発見したボーイに違いないと思った。同時にそのボーイが頭をがっくりと下げたまま、口を確《しっ》かりと噤《つぐ》んでいる横顔が、何かしら一言も云うまいと決心しているのに気付いた。それを志免と飯村の二人が無理やりに問い詰めて、いよいよこじらしているらしい様子を見て取ったので、これはこの際一大事と思ってつかつかと室《へや》の中央のテーブルをまわって行った。すると、それと殆んど同時に、隣の寝室で岩形氏の屍体を取り巻いていた熱海検事以下十余名の同勢がどかどかと寝室から出て来て私の背後を取り巻いたので、只さえぶるぶると顫《ふる》えながら立っていたボーイはいよいよ顫え上ってしまったらしく、傍に近寄って行く私の顔を、命でも取られるかのように身構えをして見上げた。眼の球を真白に剥き出して、唇の色まで失《な》くしてしまった。
私はわざと、その顔を見向きもしないまま見知り越の、熱海検事を振り返って中折帽を取った。
「何かあれからタネが上りましたか。電話で承わりました以外に……」
まだ若い熱海検事は無言のまま恭《うやうや》しく帽子を脱《と》った。そうして静かに志免警部をかえりみた。
「……ええ。この山本というボーイが何か知っているらしいのですけども……」
と引き取って答えながら飯村警部は又ボーイの顔を見た。
「……ワ……私は……何も知らないんです。何もしやしないんです。僕は……僕は……僕は……」
と突然にボーイが叫び出した。唇はわなわなと顫えて、涙が蒼《あお》ざめた頬を伝い落ちた。私はわざと朗かに笑い出した。
「ハハハハハ。誰もお前を犯人とは思っ
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