ゴンクール氏の顔は見る見る緊張した。その皮膚は素焼の陶器のように、全く光沢《ひかり》を失って、物凄い、冷たい眼の光りばかりがハタハタと女を射た……。
何秒か……何世紀か……殆んど人間の力には堪えられぬ程の恐ろしい沈黙が、空しく室《へや》の中を流れて行った。
それは崇高な静寂……息苦しい空虚であった。……間一髪を容れぬ生死の境がじりじりと、涯てしもなく継続して行く……手に汗を握る……死んだ画面であった。
その中に唯独り正面の時計の振り子は、硝子《ガラス》の鉢に水銀の波を湛えて、黄金の神殿の床を緩やかに廻《めぐ》って行き、又、ゆるやかに廻りかえって来た。そうして、やがて場面とおよそ調和しない閑静な響を唯一つ打った。
……八時十五分……。
女は突然に身を反《そ》らして高らかに笑い出した。
「ホホホホホホ。ヒヒヒハハハホホホホホホホホホホホ……」
その甲走《かんばし》ったヒステリカルな声は、絶え間なく、次から次へ響き渡って、室《へや》の中に充ち満ちし電燈の光りを波のように打ち震わしているかのように思われた。……但し……その声は明かに作り笑いとしか聞えなかった。けれども、それが作り笑いであるだけ、それだけ一層冷やかに物凄く感ぜられた。
ゴンクール氏の眥《まなじり》はきりきりと釣り上った。女の笑い声の一震動|毎《ごと》にビクビクと動いた。髪の毛は逆立ち、唇を深く噛み締めて、拳銃《ピストル》の柄を砕くる許《ばか》りに握り締めつつじりじりと後退《あとじさ》りをした。その顔面の皮膚の下から見る見る現われて来た兇猛な青筋……残忍な感情を引き釣らせる筋肉……それは宛然《えんぜん》たる悪魔の相好であった。
神も恐れぬ。人も恐れぬ。法律も道徳も、人情も……血も涙も知らぬ。唯死を恐れぬ者のみを恐るる悪魔の表情であった。悪魔が頼みにしている最後の威嚇手段……死の宣告……に対して平然としているのみならず、これを軽蔑し、これを嘲り笑っている驚くべき霊魂に対して、必死の勇気を絞り集めつつ対抗しようと焦躁《あせ》っている魔神の姿であった。
女はやがてピタリと笑い止んだ。よろよろとよろけて机に後手を突いて、自分の眉間に正対して震えている白い銃口を見、又、ゴンクール氏の顔を見た。悲し気な笑《えみ》を片頬に浮かめた。そうして淋しい訴えるような口調で物を云い初めたが……その言葉は思いもかけ
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