発端となっている志村浩太郎氏の変死は、私の判断も、又は嬢次少年の説明も超越した一種特別の変死である事が、考えられて来るではないか。志村浩太郎は私の第一印象の通りに、その妻の志村のぶ子に殺されたものであるのみならず、二年後の今日《こんにち》に至るまで私を迷わせ、妄動させて、私の生命までも飜弄すべく屍体を仮装させられたもの……という可能性が生れて来るではないか。
 志村のぶ子はJ・I・Cのために現在の夫も殺して、世にも奇怪な死状を装わせて、あのような真に迫った手紙や遺書を残して、まんまと首尾よく私を欺し了《おお》せる一方に、事情を知っている鮮人朴を射殺しながら、情夫の樫尾と共にどこへか姿を晦《くら》ました稀代《きだい》の毒婦であった……という事実が、志村氏の死体のポケットにあった紫のハンカチによって暗示されていた事になるではないか。……志村氏を脅迫した聖書によって裏書されている事になるではないか。
 しかもこの事実を肯定すると、それに連れて、今日私が曲馬場で死ぬ程心配させられた裏面の魂胆も、容易《たやす》く、明白に解決されて来る。
「大馬と小犬」の喜劇が、嬢次少年の予告した時間よりもずっと早く済んだ。そのために馬の舞踏会の開始時間が繰り上げられて、ちょうど舞踏の真最中に馬が暴れ出す事になった。これは嬢次少年の過失か、私の聞き誤りか、それとも何かの手違いかと思っていたが、それはいずれも大勘違いの勘五郎であった。私の第六感の暗示を基礎として判断して行くと、少年はカルロ・ナイン嬢と、女優髷の女を一味とする、J・I・Cの一団と十分の協議を遂げて、私に「四十分|乃至《ないし》二十分」の時間を告げたのであった。そうして私をあの曲馬場に引っぱり出して、われと自分の手で作り出させた危機一髪の情景に、われと自分を狂い出させて、そのドサクサに紛れて私を、兇猛なハドルスキーの手にかけて始末させようとした。……けれども、その第一の手段が失敗に終ったと見るや否や、第二の手段として、あの女優髷の女に私を殺させるべく、紫のハンカチを手渡しさせた……二年前の志村のぶ子と同じ役目を受け持たせた……という計画の辻褄《つじつま》がすっかり合って来るではないか。
 すべては虚構《うそ》であった。一切は芝居であった。そうして全部は私の敵に外ならなかった。
 彼等……紫のハンカチを相印《シムボル》とする、J・I・
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