受け取った志村浩太郎氏は、その夜のうちに奇怪な変死を遂げたではないか。今から考えると、志村浩太郎氏の死状は、私の判断も、呉井嬢次の説明も超越した、恐ろしい死に方であったのだ。
 そうして現在の私も、紫のハンカチを、J・I・Cと関係のあるらしい美しい女から渡されて、死の暗示を与えられているではないか。二年前の志村氏と同様の不可思議な「死の運命」の方向へ、ぐんぐんと惹き付けられて行きつつあるではないか。
 ……私がJ・I・Cに殺されなければならぬ理由は数え上げるだけ野暮《やぼ》であろう。私が二年前に、前総監の許可を得て、M男爵から内密に借り受けた名簿によって日本内地に散在するJ・I・C団員を虱潰《しらみつぶ》しに投獄し、又は国外に放逐した事実は、微塵《みじん》も外《ほか》へ洩れていないにしても、最少限J・I・Cの連中の記憶には骨の髄まで徹底している筈である。さもなくとも私が辞職の直前に、現警視総監と大声で云い争った、その半言隻句でも外に洩れたとすれば、それだけで十分である。況《いわん》や私の眼の球の黒いうちはJ・I・Cの影法師でも二重橋橋下に近づけない覚悟でいる事が、万に一つでもJ・I・Cに伝わったとしたらどうであろう。
 否々《いやいや》。彼等はもうとっくの昔に私のこうした決心を感付いている筈である。そうして私を第一番に片付けてから、第二第三の仕事にかかる予定にしていなければならぬ筈である。そうして彼等はこの目的の下に、生命《いのち》知らずの無頼漢をすぐり集めて、曲馬団を組織して捲土重来《けんどちょうらい》したものに違いないのである。これは決して私の自惚《うぬぼ》れや何かで云うのではない。
 然るに私は最前嬢次少年に会ってから後《のち》というものはこんな考えから全然遠ざかっていた。自分の一身に関する危険なぞは変にも考えずに、ただ漫然と様子を見る位の考えで見物に来ていた。そうして嬢次少年の仕事を手伝うこと以外に何等の緊張も、危険も感じないまま双眼鏡をひねくりまわしているに過ぎなかった。そうして思いもかけぬ大失敗をして徹底的にたたき付けられたまま曲馬場を出て来たのであった。
 その時の私の頭の中は、自分自身がどこに居るのか、判断出来ないくらい混乱していた。常識とか理智とかいうものは跡型《あとかた》もなくノック・アウトされた空《から》っぽ同然のあたまを肩の上に乗せて、ふらふ
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