幕間《まくあい》二三分乃至四五分の後に始まるであろう、馬の舞踏会である。戦慄すべき馬の舞踏……。
……瞬間……おそるべき幻影がまざまざと私の眼の前に描き出された。
……場内に数十頭の裸馬が整列する……。
……その間に軽羅《うすもの》を纏うた数十名の美人が立ち交《こも》って、愉快な音楽に合わせて一斉に舞踏を初める……。
……けれどもそれは、まだ十分と経たない中《うち》に見る見る悽惨を極めた修羅場と化する……。
……数十頭の馬が突然棹立ちになって狂いはじめる……。
……噛み付く……。
……蹴飛ばす……。
……飛びかかる……。
……抱き倒す……。
……蹂《ふ》み躙《にじ》る……。
……数十名の美人は悲鳴を揚げて逃げ惑いつつ片端から狂馬の蹄鉄にかかって行く……肉が裂ける……骨が砕ける……血が飛沫《しぶ》く……咆哮……怒号……絶叫……苦悶……叫喚……大叫喚……。
……大虐殺の見世物……。
……活地獄《いきじごく》のオーケストラ……。
……私の罪……。
……肝魂《きもたま》が消え失せるとはこの時の私の事であったろう。頭の中がグワーンと鳴った。眼の前に灰色の靄《もや》がズ――ウと降りて来た。立ち上ろうとしたが膝が石のように固まって動かない。叫ぼうとしたが胸が鉄より重くなって呼吸《いき》が出来ない。やっとの思いで、わななく手を額に当てたが、その額は硝子《ガラス》のように冷たかった。
忽ち粗《まば》らな拍手が起った。その音に連れて、眼の前の靄がズ――ウと開いた。楽屋の入口から燕尾服《えんびふく》を着た日本人と、水色の礼服を着たカルロ・ナイン嬢が静々と歩み出して来るのが見えた。
私は長い、ふるえた溜息をホ――ッとした。同時に全身の緊張が弛んで、腋《わき》の下から滴《したた》る冷汗を押える事が出来た。
ナイン嬢と燕尾服の男は広場の真中まで来ると並んで立ち止った。
二人が見物に対して丁重な敬礼を終ると、ナイン嬢が流暢《りゅうちょう》な英語で左《さ》の意味の事を述べた。
「……満場の淑女……紳士方よ……。
妾《わたし》は先ほど皆様にお目見得致しまして、拙《つたな》い技を御覧に入れました露西亜《ロシア》少女カルロ・ナインでございます。
わたくしは今、バード・ストーン曲馬団の団員一同を代表致しまして、謹んで皆様にお詫び致さなければなりませぬ事が出来ました
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