探しになるのが何よりのお楽しみだそうですね。いいお道楽ですよマッタク……古本屋《しょうばいにん》てものは元来、眼の見えない者が多いんだが、お前は割合によくわかるから、話相手になると仰言《おっしゃ》ってね……ヘヘヘ。手前味噌で恐れ入ります。いつも御指導を願っております。
御覧の通り手前共では、学生さんが御相手でげすから、横文字の書物なら全部、大きく原書と書いた貼札をして同じ棚に並べておきますので……ところがこの間ウッカリ、
CHOHMEY KAMO'S HOJOKY
って書いた奴を、何だかよく判らないでパラパラッと見たまんまに原書って書いた札をデカデカと貼って二円の符牒を付けておきましたら、中江先生がソイツを棚の中から引っこ抜いてお出でになって、私の鼻の先に突付けて、お叱りになったものです。
「しっかりしてくれなくちゃ困る」
てえ御立腹なんで……成る程、よく読んでみますと鴨の長明の方丈記の英訳なんで。ハッハッハッ。ドッチが原書なんだか訳《わけ》がわかりませんや。まったく恐れ入りましたよ。方丈記の英訳の中でも一番古いものだからと仰言って二十円で買って頂きましたよ。ゲーテの詩集の埋合
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