出来たり何かしてマゴマゴしている中にコンナに頭が禿げちゃっちゃあモウ取返《とりけえ》しが付きやせん。まあまあナマクラ者にゃ似合い相当のところでげしょう。文句はありませんや。
 ヘエヘエ。それあ、この××クンダリへ流れて来るまでにゃガラ相当の苦労も致しやしたよ。途中で古本屋《しょうばい》がイヤンなっちゃって、見よう見真似の落語家《はなしか》になったり、幇間《たいこもち》になったりしましたが、やっぱり皮切りの商売がよろしいようで、人間迷っちゃ損で御座いますナ。だんだん呼吸をおぼえて来ると面白い事もチョイチョイ御座いますナ。ヘエ……粗茶で御座いますが一服いかが様で……ドウゾごゆっくり……。
 コンナに降りますと、お客様もお見えになりませんな。いつ来て見ても、お客様が一人立っておいでになる古本屋なら、大丈夫立って行くものです。ですから一人もお客様がお見えにならないと手前が自分でサクラになってノソノソ降りて行きまして、本棚なぞを整理致しておりますんで……これがマア商売のコツで御座いますナ。つまりその一人立っている人間が店の囮《おとり》になるんで……通りかかりの方が店を覗いて御覧になった時に、誰か
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