o来ない仕事だと聞いておりましたがマッタクその通りだと思いましたナ。
 その耶蘇教《やそきょう》の僧侶《ぼう》さんは多分、精神異状者か何かだったのでしょう。そんなつもりで、世界中を悪党だらけにするつもりで、一生懸命に書いたらしく、この世界が「悪」ばっかりで固まっている世界だ……神様なんてものは唯、悪魔の手伝いに出て来た位のもんだっていう事を、出来るだけ念入りに説明しているんです。
「神は弱者のためにのみ存在し、弱者は強者のためにのみ汗水を流し、強者は又、悪魔のためにのみ生存せるもの也」
「世界の最初には物質あり。物質以外には何物もなし。物質は慾望と共に在り。慾望は又、悪魔と共に在り。慾望、物質は悪魔の生れ代り也。故に物質と慾望に最忠実なるものは強者となり悪魔となりて栄え、物質と慾望とを最も軽蔑する者は弱者となり、神となりて亡ぶ。故に神と良心を無視し、黄金と肉慾を崇拝する者は地上の強者也。支配者也」
「強者、支配者は地上の錬金術師也。彼等の手を触るる者は悉《ことごと》く黄金となり、黄金となす能《あた》わざるものは悉く灰となる」
「黄金を作る者は地上の悪魔也。彼等の触るる異性は悉く肉慾の奴
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