ノ到れり。わが生まれいでし心は親兄弟、もしくは羅馬《ローマ》法皇が自分のために都合よく作り出せる所謂『神の心』には非《あら》ず。生前の神罰、死後の地獄また在ることなし。何をか恐れ、何をか憚《はばか》らんや。
歴代の羅馬法皇、その他の覇者は皆この悪魔道の礼讃実行者なり。万人の翹望《ぎょうぼう》する上流階級の特権なるものは皆この悪魔道に関する特権に外ならず。人類の日常祈るところの核心《もの》は皆、この外道精神の満足に他ならず。強者は聖書を以て弱者を瞞着し、科学の教うるところの悪魔の力を恣《ほしいまま》にして恥じざらむとす。
全世界の人類よ。皆、虚偽の聖書を棄てて、この真実の外道祈祷書を抱け。われは悪魔道のキリストなり。弱き者。貧しき者。悲しむ者は皆吾に従え」
といったような熱烈な調子で、人類全般に、あらゆる悪事をすすめる文句がノベタラに書いて御座います。私《あっし》はそれを読んで行くうちに、自分の首を絞《しめ》られるような気持になってしまいましたよ。西洋《あちら》には血も涙もない悪党が多い。生肝《いきぎも》取りだの死人《しびと》使い、奴隷売買、人殺し請負いナンテものは西洋人でなくちゃ
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