ば通ずるとでも言うものか、一等呑助の警察廻り君が名案を出した。
今でも福岡に支社を持っている××麦酒《ビール》会社は当時、九州でも一流の庭球の大選手を網羅していた。九州の実業庭球界でも××麦酒の向う処一敵なしと言う位で、同支社の横に千円ばかり掛けた堂々たる庭球コートを二つ持っていた。
「あの××麦酒に一つ庭球試合を申込んで遣ろうじゃないか」
と言うと、皆総立ちになって賛成した。
「果して御馳走に麦酒が出るか出ないか」
と遅疑する者もいたが、
「出なくともモトモトじゃないか」
と言うので一切の異議を一蹴して、直ぐに電話で相手にチャレンジすると、
「ちょうど選手も揃っております。いつでも宜しい」
と言う色よい返事である。
「それでは明日が日曜で夕刊がありませんから午前中にお願いしましょう。午後は仕事がありますから……五組で五回ゲーム。午前九時から……結構です。どうぞよろしく……」
という話が決定《きま》った。麦酒会社でも抜け目はない、新聞社と試合をすれば新聞に記事が出る……広告になると思ったものらしいが、それにしてもこっちの実力がわからないので作戦を立てるのに困ったと言う。
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