私は三名の医員と共に七号病室に駆け付けまして、一郎を取り押えようとしましたが、血に狂った一郎は手にせる鍬《くわ》を竹片《たけぎれ》の如くブンブンと振りまわして「見に来てはいけない見に来てはいけない」と叫びますので、非常に危険で近寄れません。そこへあとから駆け付けられた正木先生の顔を見ると、呉一郎は忽《たちま》ち鎮静しまして、嬉し気に一礼しつつ血に塗《まみ》れて床の上に横たわっている少女シノの半裸体の屍体を指して「お父さん、この間あの石切場で、僕に貸して下すった絵巻物を、も一ペン貸して下さいませんか。こんないいモデルが見つかりましたから……」という奇怪な一語を発しました。これを聞かされた正木先生は何故か非常に昂奮された模様で、今思い出しても物凄いほど真青な顔になって私たちを見まわされましたが、そのまま「何をタワケた事を云うかッ」と大喝されますと、単身呉一郎に組み付いて取押えられたのであります。それから暫くはお顔の色が悪いようでしたが、呉一郎が壁に頭を打付けて絶息しました後《のち》は気力を回復されたらしく、あれ程の大事件のさなかにも拘わらず、快濶《かいかつ》にキビキビと種々《いろいろ》の指
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