正木博士」は本文より5段階大きな文字]


この時急を聞いて駆け付けた正木博士は、極めて平然たる態度で医員を指揮しつつ暴れ狂う一郎の手からシノの死骸と鍬を奪い取り、一郎に狂人|制御《せいぎょ》用袖無しシャツを着せ、足枷《あしかせ》を加えて七号室に監禁する一方、被害者シノ以下四名の男女患者に応急の手当を施《ほどこ》したが、その中二名の男子患者はいずれも致命傷ではないが生死の程はまだ見込み立たず、又、二名の少女は共に頭蓋骨を粉砕されているので手の下しようなく、この旨《むね》それぞれの近親に急報した。同時に正木博士は単身七号室に引返し、前に監禁した一郎の様子を見に行ったところ、同人は病室の壁に頭を打ち付けて絶息しているのを発見し、急遽《きゅうきょ》医員を呼んだので又も大騒ぎとなった。而《しか》してその騒ぎが一先《ひとま》ず落着し、それぞれの処置を終ると間もなく、正木博士は同教室を出たものらしく、午後二時半頃、医員山田学士が「呉一郎は回復の見込あり」という報告を為《な》すべく、同教授を探しまわった時には、最早《もはや》、同科教室及病院内のどこにも正木博士の姿を発見し得なかったという。


  
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