ョロキョロとそこいらを見廻した。
 私はこの室《へや》の中のどこかに、眼に見えぬ奇術師が居て、手品を使っているとしか思えなかった。それとも私の精神が又も変調を起して、何かの幻覚に陥っているのではないか知らんと思い思い、こわごわその号外を取上げて見たが、八ツに折られた新聞紙一頁大の右肩にトテツもない大きな活字で印刷してある標題を読むと思わず「アッ」と叫び声を挙げた。背後の廻転椅子に引っかかってヨロメキ倒れそうになった。
 それは大正十五年の十月二十日……正面の壁のカレンダーが示す斎藤博士の命日の翌日……正木博士が自殺したと若林博士が言ったその日に、福岡市の西海新聞から発行されたもので、頁の左肩には鼻眼鏡を光らして、義歯をクワット剥出《むきだ》した正木博士の笑い顔が、五寸四方位の大きさに目の荒い粗《あら》い写真版で刷り出してあった。


   九大精神病学教授[#「九大精神病学教授」は本文より2段階大きな文字]
    正木博士投身自殺す[#「正木博士投身自殺す」は本文より5段階大きな文字]
      同時に狂人の解放治療場内に勃発せし稀有《けう》の惨殺事件曝露す[#「同時に狂人の解放治
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