残っている意外千万なあるもの[#「あるもの」に傍点]がこの絵巻物のどこかに潜んでいそうな一種の霊感に満たされつつ手早く絵巻物の紐《ひも》を解いた。その序《ついで》に腕時計を見ると、ちょうど十二時に十分前である。正面の電気時計は十一分前であるが、これはもう長い針がXの字の処へ飛ぼうとしている間際かも知れない。

 絵巻物の軸になっている緑色の石の処に息を吐きかけてみると、誰のともわからぬ指紋が重なり合って見えるようであるが、これは先刻《さっき》私がイジクリまわした跡だと気が付いたので苦笑しいしい巻物を取り直した。こんな迂濶《うかつ》な事では駄目だぞ……と自分で自分を冷罵しながら……。
 表装の刺繍と内部の紺色の紙の上に、細く光る繊維みたようなものが、数限りなく粘り付いているが、これは嘗てこの絵巻物を真綿か何かで包んでいた遺跡であろう。鼻に当てて嗅いでみると、黴臭《かびくさ》いにおいと、軽い樟脳《しょうのう》みたような香気が一緒になった中から、どこともなく奥床《おくゆか》しい別の匂いがして来るようであるが、なおよく気を落ち付けて嗅ぎ直して見ると、それは私が初めて嗅ぎ出したものではないかと思
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