うものであろうか……。
 ……私は不意にドキンとして、今一度回転椅子の上に座り直した。今までにない……何とも云えない神聖な気持に満たされつつ、恭《うやうや》しく絵巻物を取り上げると、ジッと見詰めて考えた。
 ……最後に残るものはこの絵巻物の魔力である。……すべては否定出来る。……しかしこの絵巻物の魔力ばかりは最後の最後まで否定出来ない……と……
 ……この事件は表面から見ると、すべてがノンセンスに出来上っていると云える。実に詰まらない小事件の寄せ集めに過ぎないと考えられるので、唯、その間に正木、若林の両博士が引っかかり合ってこの絵巻物の魔力を中心にして或る怪事業を成し遂《と》げようと試みているために、全体が非常に有意義な、戦慄すべき緊張味を示しているかのように見えるのであるが、しかし一歩退いて、この事件を裏から覗いてみると、実は二人の博士が二人とも、この絵巻物にコキ使われているのだ。自分たちが持っているだけの智慧も、度胸も、学問も、地位も、名誉も、生命《いのち》までも投げ出して、この絵巻物の魔力の前に三拝九拝しているのだ。その以外の人間の生死も、流転も、煩悶も、万一《もし》正木博士の話
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