その網の主というのは、学術界に棲息している二匹の大きな毒蜘蛛《どくぐも》である。曠古《こうこ》の精神科学者Mと、無双の名法医学者Wである。……その中でもMが私に投げかけた網の恐ろしかった事……私は今の今まで全力を挙げて抵抗して来た。全身の血を逆行させて、冷たい汗と、熱い涙のあらん限りを絞って闘って来た。そうして何かしらその相手に非常な打撃を与えて追い払ったようであるが、しかし、それと同時に私も力が尽きた。自分の行為の善悪を判断する力はおろか、この大テーブルから離れる元気さえなくなった。精神的にも肉体的にも、再び起つ勇気があるかないかすら解らない位疲れてしまっている。
 ……けれども……けれども私の背後には今一つの強敵が控えている。その強敵Wは、或はこの場の光景までも見透かして、冷笑しているかも知れぬ。それ程に抜け目のない、堅実な網を張って、私が落ち込んで来るのを待ち構えているに違いない。私自身は勿論のこと、あの正木博士すら気付かぬ位巧妙な、行き届いた、偉大な智慧の力でシッカリと私を押え付けて、血も涙も、骨も抜き取って、虚偽と穢《けが》れによって作り上げられた学術の犠牲に供すべく、刻一刻
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