承《うけたまわ》るつもりでいたし、一切の財産は軽少ながら、この真相の発表に対するお礼の印として、書類と一緒に一旦若林に預けて、君の頭が回復した後《のち》に改めて引渡してもらう考えでいたし、又、発表の内容だって同様に、心理遺伝そのものの大体の要領さえ得ておれば、附録の実例に出て来る事件の犯人の名前なんぞは、どうでもいい……勝手にしやがれという了簡《りょうけん》で、つい今さっきまでいたんだが……。
 ……しかし、これが前世の業《ごう》とでもいうんだろう……先刻《さっき》から若林が、彼奴《きゃつ》一流の御叮嚀な遣り口で、そろりそろりと催眠術みたような暗示を君に与えながら、自分の勝手のいい方向に、君の頭を引っぱり込もうとしている態度を見ているうちに、吾輩の持って生れた癇《かん》の虫がジリジリして来た。その若林の見え透いた手の中《うち》がゾクゾクする程イヤ味になって来たので、一つ逆襲してやれという気になって、ここへ出て来た訳なんだが……。
 ……ところが又……こうやって君と話しているうちに……つい今しがたから、何だか又気が変って来たようだ。理屈は兎《と》も角《かく》として、何もかもがヤタラに面倒
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