据えた。……がその真黒い眼の光りの強烈さ……罪人を見下す神様のような厳粛さ……怒った猛獣かと思われる凄じさ……。怒髪天を衝《つ》くばかりの勢《いきおい》であった私は一たまりもなく慄《ふる》え上った。ヨロヨロと背後《うしろ》によろめく間もなくドタリと椅子に尻餅を突いた。その恐ろしい瞳に、自分の眼を吸い付けられたまま……。
「……馬鹿ッ……」
私は左右の耳朶《みみたぼ》に火が附いたように感じつつ、ガックリと低頭《うなだ》れた。
「……無考《むかんが》えにも程がある……」
その声は私の頭の上から大磐石《だいばんじゃく》のように圧《お》しかかって来た。しかも今までのタヨリない、淋しい態度とは打って変って、父親の言葉かと思われるほどの威厳と慈悲とが、その底に籠《こも》っていた。
私は又、何故ともなく胸が一パイになりかけて来た。正木博士の筋ばった両手の指が机の端を押え付けて、一句一句に力を入れて行くのを見詰めながら……。
「……これ程の恐ろしい実験を、ここまで突込んで行《や》り得る者が、吾輩でなければ、外には今一人しかいないであろうという事は誰でも考え得る事じゃないか。又それがわかればその人
前へ
次へ
全939ページ中796ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング