ななかしつつさ迷い出た。しかも……呉青秀のこうした心理の裡面には、その永い間の禁慾生活によって鬱積、圧搾された性慾が、疼痛《うず》く程の強烈な刺戟を続けていたに違いないのだ。その刺戟が疲労し切った、冴え切った神経によって盛んに屈折分析され、変形、遊離させられつつ、辛辣、鋭敏を極めた変態的の興奮を、呉青秀の全身に渦巻かせていたに相違ないのだ。そうしてその捩《よ》じれ狂うた性慾の変態的習性と、その形容を絶した痛烈な記憶とを、その全身の細胞の一粒《ひとつぶ》一粒|毎《ごと》に、張り裂けるほど充実感銘させていた事と思う」
寂《さ》び沈んだ、一種の凄味《すごみ》を帯びた正木博士の声は、ここで一寸《ちょっと》中絶した。
私は眼の前に在る獅子の刺繍が、視力の疲労のためにボーッとなるのを、なおも飽かず飽かず見詰めていた。そのボーッとした色の中に、たった一つ浮出している草色の一つに何故ともなく心を惹《ひ》かれながら耳を傾けていた。
「……こうして忠君も、愛国も、名誉も、芸術も、夫婦愛も、何もかも超越してしまって、ただ極度に異常な変態性慾の刺戟だけで、生きて、さ迷うていた呉青秀は、一年振りに帰って来た
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