た由来記の内容に対する記憶までも一緒に呼び起しているんだから訳はない。范陽《はんよう》の進士呉青秀の学力が、自分の経歴を暗記した奴を、又読み返すようなもんだ。白紙を突きつけても間違わずに読める訳だ」
「……驚いた……成る程……」
「こいつが第一段の暗示になった訳だが、次に、第二段の暗示となって呉一郎を昏迷させたものは、その六個の死美人像の中《うち》に盛り込まれている思想である」
「思想というと……やはり呉青秀の……」
「そうだ。この心理遺伝のそもそもというものは、呉青秀の忠君愛国から初まって、その自殺に終る事になっているが、それはその由来記の表面だけの事実で、その事実の裡面に今一歩深く首を突込んでみると豈計《あにはか》らんや。呉青秀の忠勇義烈がいつの間にか変化して、純然たる変態性慾ばかりになって行く過程が遺憾なく窺われるのだ。ちょうど材木が乾溜《かんりゅう》されて、アルコールに変って行くようにね」
「……………」
「……ところでこの経過を説明すると、とても一年や二年ぐらいの講座では片付かないのだが、吾輩が昨夜《ゆんべ》焼いてしまった心理遺伝論のおしまいに、附録にして載せようと思っていた
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