まに、その臙脂《えんじ》色の薄ぼけた頬から、青光りする珊瑚《さんご》色の唇のあたりを凝視していたのであった。
「ハッハッハッ。馬鹿に固くなっているじゃないか。エー……オイ。どうだい。大したものだろう。呉青秀《ごせいしゅう》の筆力は……」
 絵巻物の向うから正木博士がこんな風に気軽く声をかけた。しかし私は依然として身動きが出来なかった。唯やっと切れ切れに口を利く事が出来ただけであった。今までと丸で違った妙なカスレた声で……。
「……この顔は……さっきの……呉モヨ子と……」
「生き写しだろう……」
 と正木博士はすぐに引き取って云った。その途端に私は、やっと絵巻物から眼を外《そ》らして、正木博士のこっちに振り向いた顔を見る事が出来たが、その顔には一種の同情とも、誇りとも、皮肉とも何ともつかぬ笑いが一面に浮き出していた。
「……どうだい面白いだろう。心理遺伝が恐ろしいように肉体の遺伝も恐ろしいものなんだ。姪の浜の一農家の娘、呉モヨ子の眼鼻立ちが、今から一千百余年|前《ぜん》、唐の玄宗皇帝の御代《みよ》に大評判であった花清宮裡《かせいきゅうり》の双※[#「虫+夾」、第3水準1−91−54]姉妹
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