まり若いのに驚いたからであった。
 今朝暗いうちに、七号室で撫でまわして想像した時には、三十前後の鬚武者《ひげむしゃ》で、人相の悪いスゴイ風采だろうと思っていたが、それから手入れをしてもらったにしても、掌《てのひら》で撫でまわした感じと、実物とが、こんなに違っていようとは思わなかった。
 眼の前の等身大の鏡の中に突立っている私は、まだやっと二十歳《はたち》かそこいらの青二才としか見えない。額の丸い、腮《あご》の薄い、眼の大きい、ビックリしたような顔である。制服がなければ中学生と思われるかも知れない。こんな青二才が私だったのかと思うと、今朝からの張り合いが、みるみる抜けて行くような、又は、何ともいえない気味の悪いような……嬉しいような……悲しいような……一種異様な気持ちになってしまった。
 その時に背後《うしろ》から若林博士が、催促をするように声をかけた。
「……いかがです……思い出されましたか……御自分のお名前を……」
 私は冠《かむ》りかけていた帽子を慌てて脱いだ。冷めたい唾液《つば》をグッと嚥《の》み込んで振り返ったが、その時に若林博士が、先刻から私を、色々な不思議な方法でイジクリ
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