名付け親となって、呉忠雄《ごちゅうゆう》と命名し、大袈裟《おおげさ》な命名式を挙げて前途を祝福しつつ、唐津に上陸させて、土地の豪族、松浦某に托した。そこで芬夫人はその由来をこの絵巻物に手記して子孫に伝えた……めでたしめでたしというわけだ」
「じゃその名文は芬夫人が書いたんですね」
「イヤ。文字はたしかに女の筆附きだが、文章の方はとてもシッカリしたもので、どうしても女とは思えない。処々に韻《いん》を践《ふ》んであったり、熟字の使い方や何かが日本人離れをしているところなぞを見ると、やっぱりその名付親の勃海使が芬夫人の譚《ものがたり》に感激して、船中の徒然《つれづれ》に文案を作ってやったのを、芬夫人が浄書したものではあるまいかと思う。若林はその字体が、弥勒《みろく》像の底に刻んである字と似ているから勝空《しょうくう》という坊主が自分で聴いた話と、昔の文書とを照し合わせて文を舞わしたのじゃないかと云っているが、しかし肉筆と彫刻とは非常に字体が違う事があるから当てにはならない」
「何にしても唐津の港では大評判だったでしょうね……芬夫人の身の上が……」
「無論、大いに一般の同情を惹《ひ》いたろうと
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