ワイ追いかけて来たから淫仙先生も止むを得ず屍体を抛棄《ほうき》して、山の中に姿を隠したが、もう時候は春先になっていたのに、二三日は、その背中に担いだ屍体の冷たさが忘れられなくていくら火を焚《た》いても歯の根が合わなかったという」
「よく病気にならなかったものですね」
「ウン。風邪ぐらい引いていたかも知れないがね。思い詰めている人間の体力は超自然の抵抗力をあらわすもんだよ。況《いわ》んや呉青秀の忠志は氷雪よりも励《はげ》しとある。四五日も画房の中にジッとして、気分を取り直した呉青秀は、又も第二回の冒険をこころみるべく、コッソリと山を降って、前とは全然方角を違えた村里に下り、一|挺《ちょう》の鍬《くわ》を盗み、唯《と》ある森蔭の墓所に忍び寄ると、意外にも一人の女性が新月の光りに照らされた一基の土饅頭の前に、花を手向《たむ》けているのが見える。この夜更けに不思議な事と思って、窃《ひそ》かに近づいてみると、件《くだん》の女性は、遠い処の妓楼《ぎろう》から脱け出して来た妓女《おんな》らしく、春装を取り乱したまま土盛りの上にヒレ伏して『あなたは何故《なにゆえ》に妾《わたし》を振り棄てて死んだのです
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