暴さで無茶苦茶に引っ掻きまわしたあとから、断りもなしにザブザブと熱い湯を引っかけて、眼も口も開けられないようにしてしまうと、又も、有無《うむ》を云わさず私の両手を引っ立てて、
「コチラですよ」
 と金切声で命令しながら、モウ一度、浴槽《ゆぶね》の中へ追い込んだ。そのやり方の乱暴なこと……もしかしたら今朝ほど私に食事を持って来て、非道《ひど》い目に会わされた看護婦が、三人の中《うち》に交《まじ》っていて、復讐《かたき》を取っているのではないかと思われる位であったが、なおよく気を付けてみると、それが、毎日毎日キ印を扱い慣れている扱いぶりのようにも思えるので、私はスッカリ悲観させられてしまった。
 けれどもそのおしまいがけに、長く伸びた手足の爪を截《き》ってもらって、竹柄《たけえ》のブラシと塩で口の中を掃除して、モウ一度暖たまってから、新しいタオルで身体《からだ》中を拭《ぬぐ》い上げて、新しい黄色い櫛で頭をゴシゴシと掻き上げてもらうと、流石《さすが》に生れ変ったような気持になってしまった。こんなにサッパリした確かな気持になっているのに、どうして自分の過去を思い出さないのだろうかと思うと、不思
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