パイに吸い込んでホッとしたが、そんな景色を見まわして、立ち止まる間もなく二人の看護婦は、グングン私の両手を引っぱって、向うの青い洋館の中の、暗い廊下に連れ込んだ。そうして右手の取付《とっつ》きの部屋の前まで来ると、そこに今一人待っていた看護婦が扉を開いて、私たちと一緒に内部《なか》に這入った。
 その部屋はかなり大きい、明るい浴室であった。向うの窓際に在る石造《いしづくり》の浴槽《ゆぶね》から湧出す水蒸気が三方の硝子《ガラス》窓一面にキラキラと滴《した》たり流れていた。その中で三人の頬ぺたの赤い看護婦たちが、三人とも揃いのマン丸い赤い腕と、赤い脚を高々とマクリ出すと、イキナリ私を引っ捉えてクルクルと丸裸体《まるはだか》にして、浴槽《ゆぶね》の中に追い込んだ。そうして良《い》い加減、暖たまったところで立ち上るとすぐに、私を流し場の板片《いたぎれ》の上に引っぱり出して、前後左右から冷めたい石鹸《シャボン》とスポンジを押し付けながら、遠慮会釈もなくゴシゴシとコスリ廻した。それからダシヌケに私の頭を押え付けると、ハダカの石鹸をコスリ付けて泡沫《あわ》を山のように盛り上げながら、女とは思えない乱
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