い。一歩もこの室から出ないまま誰にも気付かれないように消え失せた……というと何だか又精神科学応用の手品じみて来るが、そんな事じゃない。種というのはこの大|暖炉《ストーブ》だ。
この大暖炉は、万一この実験が失敗するか、又は吾輩の研究の内容を他人に盗まれそうになった時に、そんな著述の原稿を全部、この中で焼き棄ててくれよう。事に依ったら吾輩自身もこの大暖炉を利用して天下を煙《けむ》に巻きながら、ヒュードロドロドロと行衛を晦ましてくれようと思って、最初から瓦斯《ガス》と電気併用の自動点火式に設計したものだが……見給え……この鉄の蓋を取ると、内部《なか》はこんなに広々して、底一面の電熱装置の間から瓦斯が噴き出すようになっている。何の事はないブンゼンラムプの大きなヤツを二百ばかり併列した形だ。この上に生きた物でも戴せて、瓦斯のコックを開いて電気のスイッチを捻《ね》じると、取りあえず瓦斯が飛び出して窒息させてしまう。そのうちに電熱器が熱して来て、ドカンと瓦斯に点火したら一時間経たぬうちに骨までボロボロになって終《しま》うだろう。その上に石でも瓦でも積み重ねておくと全部白熱して強烈な輻射熱を出すのだ
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