代の高貴な婦人と関係があるらしい事と、その婦人をモデルと致しました或る絵巻物を完成さすべく、呉一郎が斯様《かよう》に熱心に、女の死骸を求めているらしい事が、やっと判明して来たようであります。
しかし、その死骸が土中に埋められたのはいつかという正木博士の質問に対して呉一郎が茫然、答うるところを知らず、そのまま自分の室に帰って考え込んでしまったのは何故か……。
それが又、一箇月後のきょう……大正十五年の十月十九日に到って、フラリとこの解放治療場に出て参りまして、老人の鍬が空《あ》くのを一心に待ち構えているのは何故か……。
……こういう間《ま》にもこの狂人解放治療場の危機は、現在如何なるところから、如何にして迫りつつあるのか……。
この疑問を明らかにし得るものは、只今のところ、この事件を調査した若林博士と、その相談相手となっている私だけ……否、スクリーンの中の正木博士……ではない……イヤそうでもない……エエ面倒臭い、吾輩にしちまえ……序《ついで》に活動写真も止めちまえ。もう一つ序に九大精神病科の教授室の深夜に、たった一人でこの遺言書を書いている、正木キチガイ博士に帰っちまえだ。
少
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