いましたが、私はその間、たった一人になりますと、生きた空もない位恐ろしゅうなりましたので、這うようにして土蔵のうしろの裏木戸まで来まして、そこに立っている朱欒《じゃがたら》の樹に縋《すが》り付いて、やっとこさと抜けた腰を伸ばして立ち上りました。すると頭の上の葉の蔭で、土蔵の窓の銅張《あかがねば》りの扉がパタンと閉《し》まる音が致しましたから、又ギックリして振り返りますと、今度は土蔵の戸前にガッキリと鍵をかけた音が致しまして、間もなく左手に、巻物をシッカリと掴んだお八代さんが裸足《はだし》のまま髪を振り乱して離家の方へ走って行きました。そうして泥足のまま縁側から馳け上りまして、たった今寝たばかりの若旦那を引き起して巻物をさしつけながら恐ろしい顔になって、何か二言三言責め問うているのが、もう明るくなった硝子《ガラス》戸越しによく見えました。
――若旦那はその時に、昨日《きのう》の石切場の方を指して、頭を振ったり、奇妙な手真似や身ぶりを交《ま》ぜたりして、何かしら一所懸命に話して御座るように見えました。そのお話はよく聞いてもおりませんでしたし、六ヶ敷《むずかし》い言葉ばかりで、私共にはよく
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