。私は止めようとしましたが腰が立たぬ上に歯の根が合わず、声も出ませぬので、冷い土の上に、うしろ手を突いたまま見上げておりますと、お八代さんは前褄《まえづま》をからげたままサッサと梯子を登って、窓のふち[#「ふち」に傍点]に手をかけながら、矢張《やっぱ》り私と同じようにソロッと覗き込みました。……が……その時のお八代さんの胆玉《きもたま》の据《す》わりようばっかりは、今思い出しても身の毛が竦立《よだ》ちます。
――お八代さんは窓から、中の様子をジッと見まわしておりましたが「お前はそこで何事《なんごと》しおるとな」と落付いた声で尋ねました。そうすると中から若旦那様が、いつもの通りの平気な声で「お母さん……ちょっと待って下さい。もうすこしすると腐り初めますから……」と返事なさるのがよく聞えます。四囲《あたり》がシンとしておりますけに……そうするとお八代さんは、チョット考えておるようで御座いましたが「まあだナカナカ腐るもんじゃない。それよりも最早《もう》夜が明けとる故《けん》、御飯をば喰べに降りて来なさい」と云いますと、中から「ハイ」と云う返事がきこえまして、若旦那が立上られた様子で、窓際に
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